通常、成人にはレムデシビルとの併用においてバリシチニブとして4 mgを1日1回経口投与する。


日本イーライリリーは、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)による肺炎に対する治療薬として、適応追加承認を取得した経口ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤バリシチニブ(商品名:オルミエント)に関するプレスセミナーを開催した。バリシチニブは関節リウマチ、アトピー性皮膚炎の治療薬として承認されている薬剤。

今回のセミナーでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への適応拡大で行われた臨床試験の経過、使用上の詳細について説明が行われた。

はじめに齋藤 翔氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター 総合感染症科)が、「新型コロナウイルス感染症の病態、治療の現状と課題 JAK阻害剤の臨床的位置づけ」をテーマに、バリシチニブの臨床的な位置付けや使用上の注意点などを説明した。

COVID-19の病態はすでに広く知られているようにウイルス応答期と宿主炎症反応期に分けられる。そして、治療では、軽症から中等症では抗ウイルス薬のレムデシビルが使用され、病態の進行によっては抗炎症治療薬のデキサメタゾンが併用されているが、今回追加適応されたバリシチニブは中等症以上で顕著にみられるサイトカインストームへの治療として期待されている。

バシリニブの適応追加では、米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー感染症研究所(NIAID)主導によるACTT試験が行われた。特にACTT-2試験は、他施設共同・アダプティブ・無作為化・二重盲検・プラセボ対照・並行群間比較検証試験で実施され、COVID-19と診断された成人入院患者を対象にバリシチニブとレムデシビル群(n=515)とプラセボとレムデシビル群(n=518)を比較し、有効性および安全性を評価した。その結果、有効性として回復までの期間はバリシチニブ群で7日に対し、プラセボ群で8日だった(ハザード比[95%CI]:1.15[1.00-1.31] p=0.047)。また、無作為化後14日時点の死亡率では、バリシチニブ群で8例に対し、プラセボ群で15例だった(ハザード比[95%CI]:0.55[0.23-1.29])。

安全性では、グレード3(高度)または4(生命を脅かす可能性のある事象)の有害事象はバリシチニブ群で41%、プラセボ群で47%であり、重篤な有害事象ではバリシチニブ群で15%、プラセボ群で20%だった。また、死亡に至った有害事象はバリシチニブ群で4%、プラセボ群で6%だった。

次に使用上の注意点として禁忌事項に触れ、「結核患者」、「妊婦または妊娠の可能性のある女性」、「敗血症患者」、「透析患者」などへは事前の問診、検査をしっかり実施して治療に臨んでもらいたいと説明した。

次に「オルミエント錠、SARS-CoV-2による肺炎への適応追加承認と適正使用について」をテーマに吉川 彰一氏(日本イーライリリー株式会社 バイスプレジデント・執行役員/研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)が適応承認までの道程と適正使用について説明した。

もともと本剤は関節リウマチ、アトピー性皮膚炎の治療薬として使用されていたが、COVID-19の流行とともに治療薬の探索が急がれていた。その中で「Benevolent AI社が、バリシチニブがCOVID-19の治療薬になる可能性があるとLancetに発表、この報告後、での薬理作用が確認され、2020年5月にACTT試験が開始された」と語った。

作用機序は、COVID-19による急性呼吸窮迫症候群について、JAK-STATサイトカインシグナル伝達を阻害することで、増加したサイトカイン濃度を低下させ、抗炎症作用を示すという。

追加された効能は、SARS-CoV-2による肺炎(ただし酸素吸入を要する患者に限る)。用法および用量は、成人にはレムデシビルとの併用においてバリシチニブ4mgを1日1回経口投与し、総投与期間は14日間。本剤は、酸素吸入、人工呼吸管理または体外式膜型人工肺(ECMO)導入を要する患者を対象に入院下で投与を行うものとされている。また、経口投与が困難な場合、懸濁させた上で経口、胃瘻、経鼻または経口胃管での投与も考慮できるとしている。

最後に吉川氏は同社の使命である「『世界中の人々のより豊かな人生のため、革新的医薬品に思いやりを込めて』を実現し、患者の豊かな人生へ貢献していきたい」と語り講演を終えた。

●参考文献


に、レミデシビル使用時のバリシチニブ併用の有用性も報告されている20)。

バリシチニブ(Baricitinib)は、関節リウマチに対する治療薬として、2017年よりオルミエント ®という名前で日本国内でも市販されていた飲み薬です。
体内で炎症が起こると、サイトカインという細胞間の情報伝達を行うタンパク質がリンパ球などから放出され、これが様々な細胞の表面にある受容体というタンパク質に結合することで、細胞の中に炎症のシグナルが伝わります。
バリシチニブは、受容体から細胞の中に信号を伝える際に必要な、ヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素を阻害することで、サイトカインによって細胞で炎症が起こることを抑える働きを持っています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を重症化させる、いわゆるサイトカイン・ストームに対して有効な薬剤として、米国では昨年11月より抗ウイルス薬レムデシビルとの併用治療が緊急使用許可されていました。
日本では、イーライ・リリー社によって昨年12月にCOVID-19の治療薬として承認申請が行われ、4月21日の厚生労働省の審議会で承認されました。
COVID-19の治療薬としては、レムデシビル、デキサメタゾンに続く3剤目となります。
今回は、承認の決め手となったと思われる、国際二重盲検試験(ACTT-2)の成績を報告した論文を読み解いてみたいと思います。
論文が掲載されたのは、The NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE 誌の2020年12月11日号です。

原文(英語)や図表は、下のリンクからお読みいただけます
Baricitinib plus Remdesivir for Hospitalized Adults with Covid-19

ニュースなどで多くの方がご存じかと思いますが、たとえ新型コロナウイルス感染症を発病しても、ほとんどの患者さんは風邪のような症状をへて軽症のまま治ってしまいます。
しかし、一部の患者さんでは重症化して酸素吸入が必要になったり、更に悪化して人工呼吸器やECMOで生命を維持する治療が必要になったり、最悪の場合亡くなってしまったりします。
このような重症化が起こるメカニズムとしては、ウイルスの感染をきっかけに免疫システムが、いわゆる「サイトカイン・ストーム」を起こし、制御不能な炎症が肺を始めとした臓器に生じてしまうという説が有力です。
このため、新型コロナウイルス感染症の治療としては、①発症早期にはウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬を、②サイトカイン・ストームで重症化した場合には炎症を制御する薬剤を、という二段構えの戦略が必要になります。
新型コロナウイルス感染症に対する治療薬として国内承認された薬剤のうち、昨年5月に承認されたレムデシビル(ベクルリー®)は①の働きを持つ薬であり、昨年7月に承認されたデキサメタゾンは②の働きを持つ薬剤でした。
今回国内承認されたバリシチニブ(オルミエント ®)は②の働きを持つ薬剤ですが、デキサメタゾンと比較してどちらが有効性・安全性で優れているかは今の所わかっていません。
米国の疾病対策予防センター(CDC)のガイドラインでは、②の薬剤としてはデキサメタゾンを優先し、副作用の問題(高血糖など)でステロイドホルモンが使用できない症例では、バリシチニブの投与を検討するように記載されているようです。
一方、日本国内では、昨年末あたりからバリシチニブの保険適応外での使用が認められ、重症のコロナウイルス感染症の患者さんに投与が開始されていましたが、
①肺炎の陰影がCTスキャンで確認され、酸素飽和度が低下し始めるとレムデシビルの投与を開始
②悪化して酸素吸入が必要な状態になると、レムデシビルにデキサメタゾンを追加
③デキサメタゾン投与でもさらに悪化すると、上記2剤にバリシチニブを追加
という形で、デキサメタゾンとバリシチニブのどちらかを選択するというよりは、両剤を併用する医療機関が多いようです。
どちらが治療戦略として最適なのか、明らかになるにはしばらく時間が必要かもしれません。
近々改定されるであろう、厚生労働省の「COVID-19診療の手引き」では、本剤がどのような位置づけで記載されるのか興味があるところです。
第4波の到来による医療機関の逼迫が毎日のように報道されている今日このごろですが、バリシチニブの正式承認によって、投与する医療機関が増加→重症患者のICU滞在日数が短縮→重症病床の逼迫状態が改善、という流れが多少なりとも生じることを期待したいと思います。

COVID-19入院患者へのバリシチニブ+レムデシビル併用は有益/NEJM

4/25 追記
米国で進行中だったレムデシビル+デキサメタゾン療法とレムデシビル+バリシチニブ療法の比較試験(ACTT-4)が、有効性において有意差が出ない見込みのために新規の症例登録を中止したとの報道がありました。炎症を抑制する薬剤としては、病態に応じてデキサメタゾンとバリシチニブのどちらかを使えば良いと思われます。
(両方使用するとさらなる有効性が期待できるかは、追加で検討が必要と思われます。)

2019年末に中国で確認後、急速に全世界に拡散した新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2:SARS-CoV-2)は、今日に到るまで1億7000万人が感染し350万人が死に到る歴史に残るパンデミックとなっている。このSARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の治療法開発には多くの研究者と企業が総力をあげてこの一年取り組んできた。抗ウイルス活性が示唆される既存薬のrepositioningの試行に加え、重症例での病態への関与が示唆される過剰免疫の抑制についても各種抗炎症薬の効果を検証する臨床試験が実施されている。しかし、2021年4月時点、本邦でCOVID-19治療薬として承認されているものは、抗ウイルス薬のレムデシビルと、抗炎症薬であるデキサメタゾン、バリシチニブの3剤のみである。

国内外で実施された臨床試験において、バリシチニブとレムデシビルを併用した場合、レ.

複数のRCTでTCZによる死亡率の低下は認められなかったが、侵襲的酸素投与又は死亡に至った患者割合を評価したEMPACTA試験ではTCZの有用性が示された。また、REMAP-CAPグループ主導で実施された大規模な非盲検ランダム化アダプティブプラットフォーム試験やRECOVERY試験でもIL-6阻害薬の有用性が示されており、これらのプラットフォーム試験とRCTsの結果の差異は、治療体系の変化に伴いデキサメタゾンの併用率が大きく異なることが一因と考えられる。これらの知見を踏まえ、NIHガイドラインでは、人工呼吸器/高流量酸素を要する患者や、急速に酸素化の悪化を認めCRP値等の炎症マーカーの上昇を認める患者等に対して、デキサメタゾン併用下でのTCZ (8 mg/kg[最大800 mg/body]単回静脈内投与) 投与推奨が追記され、FDAは、人工呼吸器、ECMO管理含めた酸素投与を要し、ステロイド投与を受けている入院中の成人および2歳以上の小児COVID-19患者に対する本剤の緊急使用許可を2021年6月24日に発出した。国内では、非盲検単群国内第Ⅲ相試験(J-COVACTA 試験:JapicCTI-205270)が企業治験として実施されており、今後承認申請について規制当局と協議予定とのことである。

成人 Covid-19 入院患者に対するバリシチニブとレムデシビルの併用