本邦でICS単剤・マクロライド系抗菌薬はCOPDに保険適用ではなく、クラリスロマイシンが好中球性炎症性気道疾患
COPDの薬物治療で大事なのは吸入薬です。中でも治療の主役は長時間作用性抗コリン薬(LAMA)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)で、必要な症例には吸入ステロイド(ICS)が使用されます。たくさんの吸入薬を吸うのは大変なので、治療には複数の薬剤が入ったデバイス(吸入薬を吸うための容器)を使用します。主な組み合わせはLABA/LAMA、ICS/LABA/LAMAであることがほとんどです。
LAMAとLABAは気管支拡張剤といって、気管支を拡げる薬です。COPDは気管支がつぶれやすく、虚脱してしまう病気ですので、気管支を拡げることで息切れなどの症状を緩和することができます。またLAMAは気道の粘膜の腺組織からの分泌物を抑え「痰」を少なくし、LABAは気道の上皮の線毛の動きを強くすることで「痰」を外に出しやすくする作用があります。さらにLAMA/LABAを併用することでお互いの作用に好影響を与えることが知られており、上記の気管支拡張作用、「痰」を改善させる作用が増強されることがわかっています。当院でも一定の症状があるような患者さんはLAMA/LABAで治療を開始しています。
吸入ステロイド(ICS)は気道の炎症を抑える吸入薬です。特に気管支喘息では重要な薬剤ですが、COPDはあくまで補助的に使用します。重症のCOPDではICSが肺炎のリスクになる可能性があるからです。ICSがCOPDで必要なのは気管支喘息の合併が考えられるときです。またCOPD急性増悪のように発作的な呼吸状態の悪化があった方も使用されます。COPDの方へのICSの使用は注意が必要ですが、気管支喘息の合併が疑われるときはむしろ使わなければなりません。気管支喘息の治療の項でも記載したのですが、気管支喘息にICSを使用しないでLABAを使用すると、LABAだけでなく気管支喘息発作の時に使用する短時間作用性β2刺激薬(SABA)も効きづらくなってしまい、気管支喘息発作の際に命にかかわることがあるためです。
具体的な投与量はスライド81を参照)。 *2:非定型肺炎が疑われる場合:クラリスロマイシン、アジスロマイシン
内服薬はCOPDの治療においては吸入薬の補助的な役割で使われることがほとんどです。喀痰調整薬とマクロライド系の抗菌薬が使用されます。
喀痰調整薬はCOPDの方の痰の量を抑え、痰を出やすくします。またCOPD急性増悪の既往がある方の増悪を抑制し、生活の質を良くする作用があることも知られています。
マクロライド系の抗菌薬(クラリスロマイシン、エリスロマイシン、アジスロマイシン)は気管支に悪さをする細菌を殺菌する作用もあるのですが、それに加えて気道炎症を抑える作用、痰の量を減らす作用、痰を排出しやすくする作用(自浄能力改善作用)があることが知られています。特に頻繁に肺炎などの気道感染症を繰り返す症例に有効です。使用前には必ず痰の検査を行い、非結核性抗酸菌などの慢性気道感染を起こす菌がいないことを確認します。
禁煙は治療というよりは予防の意味合いのほうが強いかもしれません。ですが喫煙しなければCOPDになることは稀ですし、COPD患者さんも禁煙すると肺機能の低下を緩和し、急性増悪の頻度や死亡率を低下させることがわかっています。そのためすべてのCOPD患者さんにとって禁煙はとても大事です。受動喫煙(近くにいる人のタバコの煙を吸うこと)を避けることも大事です。当院の外来でも受診のたびに禁煙の確認をしていますが、禁煙はむずかしい方もいらっしゃいます。その要因はニコチン依存があるためです。依存には身体的依存と精神的依存があります。禁煙によりイライラするなどの苦痛となるような症状が出現することが身体的依存です。身体的依存は血中のニコチンの枯渇により起こりますが、完全に禁煙することにより数日で急速になくなります。また喫煙は一般的にストレス発散になると誤認されやすく、そのため精神的依存になりやすいです。精神的依存は非常に長く続くこともあります。喫煙はニコチンによりドパミンという物質が放出されるため、ストレス発散したような気になるだけで、あくまで誤った思い込みなのですが、それを解くのはむずかしく、繰り返し説明するほかありません。
そのほか非燃焼・加熱式タバコなどの新型タバコなどが近年増えてきていますが、日本呼吸器学会は、その使用を推奨していません。有害物質の総量としては従来のタバコよりも少ないかもしれませんが、ニコチン、タールは含まれておりますし、その他従来のタバコにはない成分が含まれています。新型タバコ喫煙者のデータも乏しいことから今後様々な呼吸器疾患のリスクになることも考えられます。煙は出なくても、喫煙者の吐く息には有害物質が含まれており受動喫煙もあります。健康のためには、やはり新型タバコに変更するのではなく完全な禁煙が望ましいです。
〔実践編〕高齢者:呼吸器疾患の合併例に抗菌薬を積極的に投与:日経DI
COPD患者さんは病気が進行すると労作時の息切れのために、運動するのがつらく、出歩くのが億劫になってしまいます。運動しなくなったり、出歩かなくなったりすると、四肢の筋力が低下し、少しの運動にも多くの酸素を必要とするようになります。しかし、COPD患者さんの肺にはその酸素を供給するのに十分な余力がないため、より強い息切れを感じるようになります。するとさらに運動などの身体活動を避けるようになり悪循環になってしまいます。この悪循環を断ち切るためには、無理のない範囲ではありますが、運動をするほかありません。目標として週に3回30分ずつご自分のペースで散歩など、主に下肢を使った運動をするのがよいです。ご自身で動けない場合などは呼吸リハビリテーションをおねがいすることもあります。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生ずる肺疾患で、呼吸機能検査で気流閉塞を示す。臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を特徴とする。炎症病態には、好中球、マクロファージ、CD8+リンパ球、好酸球および気道上皮細胞、繊維芽細胞が中心的な役割を果たす。薬物療法の中心は、長時間作用性の抗コリン薬(LAMA)やβ作用薬(LABA)などの気管支拡張薬であり、テオフィリンや喀痰調整薬などが併用される。COPDは呼吸器感染症などをきっかけに増悪し、QOLや呼吸機能を低下させ、生命予後を悪化させる。そのため、これらの長期管理薬を2剤以上使用しても増悪が頻回であれば、マクロライド系抗菌薬の少量長期療法を行うこともある(保険適用外使用)。クラリスロマイシンをCOPDやびまん性汎細気管支炎などの「好中球性炎症性気道疾患」に対して処方した場合は、審査上認められる。
マクロライド系抗菌薬のCOPD増悪抑制効果には、気道炎症や喀痰分泌の抑制、細菌原性抑制、抗ウイルスなどの作用の関与が報告されている。
DIクイズ6:(A)COPD患者のテオフィリンが減量された理由
インフルエンザワクチンはCOPDの増悪頻度と死亡率を減少することがわかっています。具体的にはインフルエンザワクチンによって、インフルエンザやその関連肺炎による入院を30%減少させ、死亡率も50%減少させるというデータがあります。
また肺炎球菌ワクチンは23価莢膜多糖体型肺炎球菌ワクチン(PPSV23)と13価蛋白結合型肺炎球菌ワクチン(PCV13)の2種類があります。PPSV23は大規模な研究でCOPD患者さんの肺炎やCOPD増悪が抑えられることがわかっており、PCV13も65歳以上の肺炎球菌性肺炎を抑制することがわかっています。PPSV23は国の定めた定期接種に入っており、65歳以降の5年ごとに初回のみ定期接種のお知らせが来ていると思います。PPSV23は5年ごとに接種することが推奨されています。PCV13は任意接種になっていますが、PCV13とPPSV23の併用によってより強力に肺炎球菌を予防することができます。COPDの方はリスクが特に高いので、まずはPPSV23による定期接種をベースとして、PCV13も時期をみて接種するのが良いと考えられます。佐久市では66歳以上で定期接種の対象外の方の肺炎球菌ワクチンの助成がありますのでご活用ください。助成を希望される場合は先に申請を行ってから予約を行い接種するようにご注意ください。以下のリンクから佐久市の申請ページにジャンプできます。
1年間マクロライド系抗菌薬の長期療法を行うことでCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の増悪リスクは減少するが、聴力の低下やマクロライド系耐性菌が増えるリスクもあることが米国・テンプル大学病院のFrederick L. Ramos氏らによって報告された。Current Opinion in Pulmonary Medicine誌オンライン版2013年12月28日の掲載報告。
COPDの増悪は有害事象と関連しているため、その予防は重要である。最近の研究からマクロライドの長期療法はCOPDの増悪リスクを減少させることがわかっている。そこで、COPDの増悪抑制に対するマクロライド系抗菌薬の長期療法の効果を検討した研究のうち、より質の高いエビデンスを選定し、再評価を行った。この再評価では、マクロライド系抗菌薬の長期療法と健康関連QOL、喀痰細菌、耐性状況、炎症性マーカー、肺機能、費用便益分析の観点からも検討を加えた。
通常の治療に加え、エリスロマイシンまたはアジスロマイシンが1年間投与されていた患者を対象とした2つの質の高い無作為化プラセボ対照試験では、COPDが増悪するまでの期間は長く、頻度も低いことがわかった。その一方で、これらの患者では聴力の低下が多く認められ、マクロライド系耐性菌も多いことがわかった。
[PDF] 1)マクロライド療法の慢性閉塞性肺疾患(COPD)増悪抑制作用
重症になると酸素療法が必要になります。在宅酸素療法が適用されます。
在宅酸素療法は自宅で酸素吸入を行うために健康保険が適用される制度である。システムは酸素発生器(濃縮器)と酸素ボンベからなります。液体酸素を使うこともあるが安全性の面から設置するための住宅条件が厳しくなるため、実際の運用では酸素発生器の使用患者が大部分を占めます。薬局で購入できる酸素ボンベでは数分しか保たないので常時、酸素吸入が必要な患者には不十分です。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪例や市中肺炎患者に対するクラリスロマイシン(商品名:クラリスほか)治療により、心血管イベントが有意に増加することが、英国・ナインウェルス病院(ダンディー市)のStuart Schembri氏らの検討で示された。英国では、COPD急性増悪と市中肺炎は入院の主原因であり、治療にはクラリスロマイシンが頻用されている。同薬投与中に心血管イベントが増加する可能性が観察試験で示唆されており、短期投与により冠動脈心疾患患者の心血管死が増加したとする無作為化対照比較試験の結果が知られているが、呼吸器感染症の治療に用いた場合の心血管イベントに及ぼす影響はこれまで不明であった。BMJ誌オンライン版2013年3月21日号掲載の報告。
研究グループは、クラリスロマイシン投与と、COPD急性増悪および市中肺炎の患者における心血管イベントの発生の関連を検討するために、2つの前向きコホート試験(EXODUS試験、エジンバラ肺炎コホート試験)のデータを解析した。
EXODUS試験には、2009~2011年に英国の12施設にCOPD急性増悪の初回診断で入院した40歳以上の患者1,343例[クラリスロマイシン投与群281例(年齢中央値70歳、男性48%)、非投与群1,062例(72歳、49%)]が登録された。エジンバラ肺炎コホート試験には、2005~2009年にエジンバラのNHS Lothian病院で市中肺炎と診断された患者1,631例[同:980例(65歳、51%)、651例(68歳、48%)]が登録された。
主要評価項目は、1年後までに発症した心血管イベント(急性冠症候群、非代償性心不全、重症不整脈、心臓突然死)および急性冠症候群(ST上昇急性心筋梗塞、非ST上昇心筋梗塞、不安定狭心症)による入院とした。副次的評価項目は1年後までに起きた全死因死亡および心血管死であった。
1年以内に心血管イベントを発症したのは、COPD急性増悪例が268例[クラリスロマイシン投与群73例(26.0%)、非投与群195例(18.4%)]、市中肺炎患者は171例[同:123例(12.6%)、48例(7.4%)]であった。
COPD急性増悪例に対するクラリスロマイシン投与により、心血管イベント[ハザード比(HR):1.50、95%信頼区間(CI):1.13~1.97]および急性冠症候群(HR:1.67、95%CI:1.04~2.68)の多変量調整済みリスクが有意に増大した。
市中肺炎患者に対するクラリスロマイシン投与では、心血管イベント(HR:1.68、95%CI:1.18~2.38)の多変量調整済みリスクは有意に上昇したが、急性冠症候群(HR:1.65、95%C:0.97~2.80)のリスクの増加には有意な差はなかった。
COPD急性増悪患者では、クラリスロマイシン投与と心血管死にも有意な関連がみられたが(HR:1.52、95%CI:1.02~2.26)、全死因死亡との関連は認めなかった(HR:1.16、95%CI:0.90~1.51)。市中肺炎患者では、クラリスロマイシン投与と全死因死亡、心血管死に関連はなかった。心血管イベントのリスクは投与期間が長くなるほど増加した。
βラクタム系抗菌薬やドキシサイクリンを投与されたCOPD急性増悪例では心血管イベントの増加はみられなかったことから、クラリスロマイシンに特有の作用であることが示唆された。
著者は、「COPD急性増悪例および市中肺炎患者に対するクラリスロマイシンの投与により、心血管イベントが増加する可能性が示唆された。これらの知見は、他のデータセットを用いた解析を行って確認する必要がある」と結論している。