「妊娠中も使える抗菌薬」の前提が崩れたら | 実践!感染症講義
胎児の様々な器官が作られる時期で、最もお薬の影響を受けやすく、お薬による奇形が問題となる重要な時期です。そのため、この時期のお薬の使用には慎重さが求められます。月経予定日に月経が来ないことに気づき、産婦人科を受診して妊娠が判明した場合、妊娠が分かった時にはすでに最も過敏な時期に入っているということになります。
2017年5月28日 妊娠中のマクロライド系抗菌薬は流産のリスク
お薬は妊婦さんの血液に取り込まれてから、胎盤を通過して胎児に影響します。そのため、お薬が胎盤を通過しやすいかどうか(胎盤移行性)が問題となります。胎盤を通過しやすいお薬の特徴には、濃度が高い・脂溶性が高い・蛋白結合率が低いなどがあります。
妊娠4週つまり受精から2週間くらいの時期は、全か無かの法則が働くと言われます。この時期にお薬を服用して受精卵に大きな影響を与えた場合、受精卵は死んでしまう(全か無かの法則の全の方)ので、妊娠自体に気づきません。小さな影響を与えた場合、代償機能が働いて全く問題の無い発育ができる(全か無かの法則のうち無の方)とされています。
そのため受精から2週までの間にお薬を服用しても影響は少ないと考えられます。
妊娠中と同様、授乳中に内服した薬の影響についてもよく問い合わせがあります。現在の ..
妊娠周期は最終月経の開始日を0周0日として数えます。出産予定日は40週0日になります。通常、排卵は月経開始日から14日目前後なので、排卵日に受精すると考えると、受精成立から280日-14日=266日目で出産予定となります。
もともと頭痛持ちという方も多いと思いますし、つわりがはじまってから頭痛がひどくて困っているという方もいらっしゃると思います。どのような薬で対処するのが良いのでしょうか。
アセトアミノフェン(カロナール)は水溶性の薬物であり、胎盤を通過しにくい性質を持ちます。これまで妊婦さんに使用される頻度の最も多かった解熱鎮痛薬で、奇形との関連は言われていません。最近では妊娠中のアセトアミノフェン使用と子の発達障害との関連性について報告する論文が出ましたが、総合的に考えてメリットをデメリットが上回るとは考えにくい状況です。
また、ロキソプロフェン(ロキソニン)も胎児に奇形を起こすとは考えられていません。
ただし、妊娠後期の解熱鎮痛薬の使用は注意が必要です。胎児の心臓には、胎盤から受け取った酸素の豊富な血液を全身に送るための動脈管と呼ばれるものが存在します。出産間近に解熱鎮痛薬を使用すると、この動脈管が収縮して胎児死亡につながる可能性があるのです。また、胎児の腎機能に影響して羊水過少を引き起こすこともあります。
腰痛に使う湿布でも、何枚も連用すると影響が出る可能性があるので注意が必要です。
妊娠中期及び後期のラットに5mg/kgの14C-クラリスロマイシンを経口投与したところ、妊娠中期の全胎仔中濃
妊婦さんに関することは、かかりつけの産婦人科に相談するのが基本ですが、状況によってはすぐに受診できなかったり、受診するほどでもないけれど心配で相談したいということもあるでしょう。当院は内科ですが、ときどき妊婦さんが受診されます。そんな方に役に立つように、妊婦さんのお薬の使用について、基本的な考え方を内科的な視点でまとめてみました。妊娠さんにおいて100%安全なお薬は無いわけですが、できるだけ危険や不安が少なくなればと思っています。
お薬の危険性を考えるにあたっては、もともとお薬とは無関係に全ての出産において先天的な異常が発生する危険があることを忘れないでください。問題はこのベースラインの危険に比べて、お薬がどの程度の危険度の上昇をもたらすかという点です。
自然流産率は15%,胎児奇形の自然発生率は約3%であるのに対し,薬剤が奇形発生の原因となるのは全奇形のうちの1-2%であり,非常に少ない確率となっています。とは言っても,一部の薬剤には催奇形性がわかっているものや,催奇形性が問題となる器官形成期を過ぎての暴露によって,胎児の発達や機能に障害を引き起こす胎児毒性が問題となる薬剤もあり注意が必要となります。一方,妊娠以前から慢性疾患などで薬を服用している場合,妊娠を機に安易に休薬することは,疾患そのものの悪化などのリスクが発生します。したがって,臨床では有益性が危険性を上回ると判断されれば,薬の使用は継続されます。
妊娠中・授乳中の女性でも、しばしば薬物による治療を必要とすることが ..
膀胱炎など菌の感染に対して使用される抗菌薬(抗生物質)の安全性はどうでしょうか。
セフカペン(フロモックス)やセフジトレン(メイアクト)などのセフェム系と呼ばれる抗菌薬は、一般の医療現場で使用される頻度が高いものです。セフカペン(フロモックス)は、脂溶性で蛋白結合率も低いため、胎盤を通過する性質を持っています。セフジトレン(メイアクト)も蛋白結合率が高いものの脂溶性のため、やはり胎盤を通過します。
しかし、これまで多くの妊婦さんに使用されており、先天異常との関連は無かったとする研究結果が多数存在します。そのため、妊娠周期や治療の必要性を考慮して投薬の要否を決めるのが良いでしょう。
妊婦さんはさまざまな理由により膀胱炎などの尿路感染を起こしやすく、急性腎盂腎炎に発展すると重篤な合併症を生じることがあります。このような場合にはセフカペン(フロモックス)やセフジトレン(メイアクト)の使用を考えます。
クラリスロマイシン(クラリス)というマクロライド系抗菌薬も有名ですが、妊婦さんに対する充分なデータはなく、危険性に関して明確な結論は出ていません。テトラサイクリン系抗菌薬(ミノマイシンなど)は、歯の着色やエナメル質の形成に影響を与えるため使用すべきでないですし、ニューキノロン系抗菌薬(クラビットなど)は、もともと妊婦さんには使用禁忌(使ってはいけない)となっています。
妊娠第1期のマクロライド系抗菌薬の処方は、ペニシリン系抗菌薬に比べ、子供の主要な先天形成異常や心血管の先天異常のリスクが高く、全妊娠期間の処方では生殖器の先天異常のリスクが増加することが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのHeng Fan氏らの調査で示された。妊娠中のマクロライド系抗菌薬処方に関する最近の系統的レビューでは、流産のリスク増加には一貫したエビデンスがあるが、先天異常や脳性麻痺、てんかんのリスク増加には一貫性のあるエビデンスは少ないと報告されている。また、妊娠中のマクロライド系抗菌薬の使用に関する施策上の勧告は、国によってかなり異なるという。BMJ誌2020年2月19日号掲載の報告。
研究グループは、妊娠中のマクロライド系抗菌薬の処方と、子供の主要な先天異常や神経発達症との関連を評価する目的で、地域住民ベースのコホート研究を行った(筆頭著者は英国Child Health Research CIOなどの助成を受けた)。
解析には、UK Clinical Practice Research Datalinkのデータを使用した。対象には、母親が妊娠4週から分娩までの期間に、単剤の抗菌薬治療としてマクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン)またはペニシリン系抗菌薬の投与を受けた、1990~2016年に出生した10万4,605人の子供が含まれた。
2つの陰性対照コホートとして、母親が妊娠前にマクロライド系抗菌薬またはペニシリンを処方された子供8万2,314人と、研究コホートの子供の同胞5万3,735人が解析に含まれた。妊娠第1期(4~13週)、妊娠第2~3期(14週~分娩)、全妊娠期間に処方を受けた妊婦に分けて解析した。
主要アウトカムとして、欧州先天異常監視機構(EUROCAT)の定義によるすべての主要な先天異常および身体の部位別の主要な先天異常(神経、心血管、消化器、生殖器、尿路)のリスクを評価した。さらに、神経発達症として、脳性麻痺、てんかん、注意欠陥多動性障害、自閉性スペクトラム障害のリスクも検討した。
主要な先天異常は、母親が妊娠中にマクロライド系抗菌薬を処方された子供では、8,632人中186人(1,000人当たり21.55人)、母親がペニシリン系抗菌薬を処方された子供では、9万5,973人中1,666例(1,000人当たり17.36人)で発生した。
妊娠第1期のマクロライド系抗菌薬の処方はペニシリン系抗菌薬に比べ、主要な先天異常のリスクが高く(1,000人当たり27.65人vs.17.65人、補正後リスク比[RR]:1.55、95%信頼区間[CI]:1.19~2.03)、心血管の先天異常(同10.60人vs.6.61人、1.62、1.05~2.51)のリスクも上昇した。
全妊娠期間にマクロライド系抗菌薬が処方された場合は、生殖器の先天異常のリスクが増加した(1,000人当たり4.75人vs.3.07人、補正後RR:1.58、95%CI:1.14~2.19、主に尿道下裂)。また、妊娠第1期のエリスロマイシンは、主要な先天異常のリスクが高かった(同27.39 vs.17.65、1.50、1.13~1.99)。
他の部位別の先天異常や神経発達症には、マクロライド系抗菌薬の処方は統計学的に有意な関連は認められなかった。また、これらの知見は、感度分析の頑健性が高かった。
著者は、「マクロライド系抗菌薬は、妊娠中は注意して使用し、研究が進むまでは、使用可能な他の抗菌薬がある場合は、それを処方すべきだろう」としている。
妊娠中に服用すると危険な薬というのは実際にはそれほど多いものでは ..
当連載はこれまで15回に及ぶ「抗菌薬の過剰使用を考える」シリーズなどで、抗菌薬の「使いすぎ」に警鐘を鳴らしてきました。その重大性に気付いてくれる人が一人でも増えてくれればうれしいのですが、実際はどうなのでしょう。最近開催されたある学会で、私は薬剤耐性菌に関する講演を行いました。その時、余談として「今日はフロモックス3日分でお願いします」とか「家にあったクラリスを2錠飲んできたから残りを処方してほしい」と平気で言う患者さんがいる、という話をすると、会場から苦笑いが……(フロモックスもクラリスも抗菌薬の商品名です)。多くの医師が同じような体験をしているのです。
妊娠中に医薬品を使用する場合,母体への影響だけでなく胎児への影響について十分注意
しかし、妊娠中の女性の行動はまるで異なります。妊娠中に抗菌薬を気軽に飲む人はまずいません。それどころか「前の病院で妊娠の可能性があると言ったんだけど、この抗生剤(患者さんは「抗菌薬」ではなく「抗生剤」「抗生物質」と呼ぶことが多い)が処方されました。飲んでもいいですか」と、わざわざ私の診療所を受診したり、メールを送ってきたりして尋ねる人がいます。
報が欠如している薬剤の妊娠中の使用に関する研究をおこなった。 ..
前医が処方したものを私が撤回するわけにはいきませんし、今のところ妊婦さんにあきらかな不適切処方が行われたと思われるケースには遭遇していませんから、そのような相談には「前医の指示に従ってください」と答えています。「」の回で紹介したように、「毎回風邪にクラビット」という安易に抗菌薬を処方する医師がいるのも事実なのですが、妊婦さんが相手の場合はそのような医師も慎重になるのかもしれません。
しかし、妊娠中でも可能な歯の治療もありますし、妊娠中にホルモンなどのバランス ..
妊娠中の抗菌薬使用については、どのように考えればいいのでしょうか。もちろん、最も大切なのは「(細菌)感染症に罹患(りかん)しない」ということです。妊娠中に高熱が出るようなことがあれば、胎児に影響が及ぶ可能性もあります。ですから、細菌感染に限らず感染症全般への十分な対策が必要です。まずうがい、手洗いは確実に行うべきです。私は「奥さん(や娘さん)が妊娠している(かもしれない)」という患者さんを診察した時、場合によっては「今日は家に帰らずに実家やホテルに泊まった方がいいのでは?」と助言することもあります。
成分名はクラリスロマイシンです。抗生剤にはさまざまな種類がありますがクラリス ..
しかし風邪を含む飛沫(ひまつ)感染や空気感染をする感染症に対しては、うがい、手洗いだけで十分とは言えません。一般に、保育園、幼稚園のような幼児が集まる場所は「感染症の貯蔵庫」のようなものです。妊娠した時、終日自宅で過ごすことができればいいのですが、上の子供の保育園や幼稚園の送り迎えをしなければならないことがあります。この時に感染症をもらうのです。あるいは、上の子供が保育園などで感染し、その子供から自宅でお母さんが感染するケースもよく見られます。
[PDF] CQ28 妊娠中の性器クラミジア感染の診断,治療は?
ですから、感染予防のことだけを考えるなら「妊娠すれば上の子と隔離」が最善となるのですが、これは非現実的です。ですが、子供から感染するリスクが高いことは知っておかねばなりません。その知識があると、妊娠前に、お母さんは少なくとも麻疹(はしか)、風疹、水痘(水ぼうそう)、おたふく風邪の抗体があるかどうかを調べなければならない、そして抗体価が低ければワクチンを接種しなければならない、ということがおのずから理解できます。「」シリーズで紹介してきたように、現在の日本では妊婦さんが風疹にかかると赤ちゃんに先天性障害が起きる可能性があることは周知されていますが、妊娠中に麻疹、水痘、おたくふく風邪に感染、罹患したときのリスクは、軽視されているように私には思えてなりません。
マクロライド系抗菌薬は上気道・下気道感染症や性感染症などに広く使用されている。一方,これまでに妊娠中から
話題を、妊娠中の抗菌薬使用の是非に戻します。うがい、手洗いをしっかりする、カンピロバクターなどの食中毒に注意する、けがを防ぐ、といった注意をしていても、細菌感染を完全に防ぐことは困難です。では、運悪く妊娠中に細菌感染を起こした場合はどうすればいいのでしょうか。
クラミジアに感染したことに気付かないまま妊娠したり、妊娠中 ..
まず、大前提としてウイルス感染の可能性を排除すべきです。太融寺町谷口医院の例でいえば、季節にもよりますが、風邪症状で受診する人の8~9割はウイルス感染です。また、細菌感染であったとしても必ず抗菌薬が必要というわけではありません。グラム染色での炎症所見が軽度で、全身状態が良好であれば抗菌薬を処方しないケースがあります。食中毒の場合も、たとえカンピロバクターなどの細菌が検出されても軽症であれば抗菌薬は不要です。けが(外傷)の場合は、初期にしっかりと洗浄(水道水でOK)していれば抗菌薬を使わなくて済むことが多々あります。
投与しないこと。コルヒチンの血中濃度上昇に伴う中毒症状が報告されている。 妊婦
とは言っても、重症化している(しそうな)場合は抗菌薬を用いなければなりません。そんなときは「妊娠中でも使える抗菌薬」を選択することになります。それはペニシリン系、セフェム系、マクロライド系の3種の抗菌薬です。クラビットという商品名で有名なニューキノロン系や、商品名・ミノマイシンなどのテトラサイクリン系は、生まれてくる赤ちゃんに奇形のリスクが生じることなどから原則妊娠中の使用は「禁忌」です。他の種類のものも「禁忌」もしくは「禁忌に近い」と考えなければなりません。しかし、このような説明を聞くと「なーんだ。妊娠していても使える抗菌薬が3種類もあるなら、そんなに心配しなくてもいいんじゃないの」と思った人もいるでしょう。ですが、この「妊娠中も使える」という前提が崩れたとすればどうでしょう。実は、最近、そのような内容の研究が報告されたのです。
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると ..
その研究は、医学誌「Canadian Medical Association Journal」2017年5月1日号(オンライン版)に掲載されました(注)。カナダ・ケベック州在住で1998年から2009年に自然流産した15~45歳の妊婦8702人を対象に調べたところ、マクロライド系抗菌薬のアジスロマイシン(先発品の商品名は「ジスロマック」)を妊娠中に服用した人の流産のリスクは服用していない人の1.65倍、クラリスロマイシン(同じく「クラリス」「クラリシッド」)なら2.35倍にもなる、という結果が出たというのです。
筋肉痛、脱力感、CK上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇があらわれることがある。
これらのマクロライド系抗菌薬は、日本の使用量が他国より多いことが指摘されています。そして実際、妊娠中にもよく使われています。「マクロライド系が流産のリスクになるなら、ペニシリン系かセフェム系を使えばいいのでは?」と思うかもしれませんが、問題はペニシリンやセフェムがまったく効かない感染症に対処せねばならないケースです。特に、それが多くの妊婦さんが感染する感染症だった場合、どうすればいいのでしょうか。次回、考えてみたいと思います。
妊娠と薬情報センター · 妊娠と薬について知りたい方へ · 授乳と薬について知り ..
たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援する代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。 月額110円メルマガ<>を配信中。