感染症:ステロイドは細菌性髄膜炎患者にベネフィットをもたらすか?


合計 301 例の患者を,157 例はデキサメタゾン治療群に,144 例はプラセボ群に無作為に割付けた.ベースライン時における両群の特性は同等であった.デキサメタゾン療法は,不良な転帰のリスクの減少と関連していた(相対リスク 0.59;95%信頼区間 0.37~0.94;P=0.03).また,デキサメタゾン療法は,死亡率の減少とも関連していた(死亡の相対リスク 0.48;95%信頼区間 0.24~0.96;P=0.04).肺炎球菌性髄膜炎患者において転帰が不良であったのは,デキサメタゾン群では 26%であったのに対し,プラセボ群では 52%であった(相対リスク 0.50;95%信頼区間 0.30~0.83;P=0.006).消化管出血は,デキサメタゾン群の 2 例およびプラセボ群の 5 例で発生した.


Pros & Cons 細菌性髄膜炎患者へのステロイド薬の適応

急性細菌性髄膜炎の成人を対象に,デキサメタゾンによる補助療法とプラセボを比較した,前向きの無作為二重盲検多施設共同試験を実施した.デキサメタゾン(10 mg)またはプラセボを抗菌剤の初回投与の 15~20 分前あるいは抗菌剤の初回投与と同時に投与し,その後 6 時間ごとに 4 日間投与した.主要転帰の指標は,8 週での Glasgow Outcome Scale であった(5 点は良好な転帰を示し,1~4 点は転帰が不良であることを示す).また,原因菌に基づいたサブグループ解析も行った.分析は intention-to-treat 解析法を用いて行った.

デキサメタゾンを用いた早期治療は,急性細菌性髄膜炎を有する成人の転帰を改善し,消化管出血のリスクを増大させない.

[PDF] 抗菌薬選択に難渋した Listeria monocytogenes 髄膜炎の 1 例

急性細菌性髄膜炎に罹患した成人,とくに肺炎球菌性髄膜炎を有する成人における死亡率と障害の罹患率は高い.動物での細菌性髄膜炎の研究では,コルチコステロイド剤を用いた補助療法が有益な効果を示している.

侵襲性髄膜炎菌感染症患者と濃厚な接触歴がある者に対して、リファンピシン、シプロフロキサシンまたはセフトリアキソンによる予防投薬が推奨されている。予防投薬の対象として考慮されるのは、患者の家族、(患者が保育園児ならば)保育園の職員、および、キス・口から口への人工呼吸・気管内挿管・気管内チューブの管理等で発症7日前以内に患者の口腔分泌物に直接曝露した人とされており、患者確認24時間以内に予防投薬を行うことが推奨されている2)。本事例では髄液培養中のコロニーからのグラム染色にて髄膜炎菌性髄膜炎を強く疑い、起炎菌が確定する前に予防投薬対象者の選定を開始することで効果的な予防投薬を施行できたと考えられた。

ら5)が 2002 年に 17 歳以上の細菌性髄膜炎患者に抗菌薬

日本国内の感染症サーベイランスシステム(NESID)を参照すると、髄膜炎菌性髄膜炎は2006~2012年の7年間で合計80例の報告が認められる。5歳ごとの年齢別内訳では15~19歳が10例と最も多く、次いで20~24歳が9例となっており、青年層でも注意が必要な疾患である。2011年5月には宮崎県で寮生活を営んでいた男子高校生の発症を機に、寮関係者を中心とした集団発生が報告されており3)、本事例でも集団発生する可能性は十分にあったと考えられる。なお、2012年に学校保健安全法施行規則の一部改正があり、髄膜炎菌性髄膜炎は第2種の学校感染症に追加されており、他者への感染の恐れがないと認められるまで出席停止が義務付けられている。また、これまで感染症法における5類感染症として「髄膜炎菌性髄膜炎」が指定されていたが、2013年4月1日より「侵襲性髄膜炎菌感染症」に変更となり、髄液または血液から髄膜炎菌が検出された際に保健所への届出が義務付けられている。

はじめに
わが国の『細菌性髄膜炎の診療ガイドライン』1)がすでに作成されており,そのなかで,インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)ならびに肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)の髄膜炎に対して,ステロイド薬を投与することが推奨されている。しかし,現在でも細菌性髄膜炎にステロイド薬を使用するかどうか? どのような患者に投与するのか? という議論は続いている。細菌性髄膜炎は生命にかかわる重篤な感染症であり,かつ比較的症例数の少ない疾患であるため,コントロールスタディが非常に困難な疾患である。そのため,ひとたびガイドラインができ上がった場合,その内容と違うことを行うことは,よほど確かな新しい知見でもない限り困難である。そのような状況下でなお疑問が生まれるとすれば,その原因は近年報告が増えているメタアナリシスの解析結果に惑わされているのではないかと推測される。なぜ問題になっているのか整理して考えてみたいと思う。

[PDF] 意識障害で肺炎球菌性髄膜炎を発症した高齢男性の2例

考 察
髄膜炎菌は飛沫感染することで知られ、国内外で集団発生の報告も数多く認められる。本邦において、髄膜炎菌性髄膜炎の発生報告件数は戦後をピークに徐々に減少しているものの、近年も年に10件前後の患者発生を認めている。早期に適切な治療がなされなかった際の致死率、後遺障害の可能性は非常に高く、今もって注意が必要な疾患である。

髄膜炎の起炎菌は培養結果により髄膜炎菌と確定した。7日間のセフトリアキソン投与により、髄膜炎は治癒し、特に後遺症なく退院となった。後日、保健所を通じて県の地方衛生研究所にて髄液の凍結保存検体から髄膜炎菌の血清群の同定を試みたが、血清群は判明しなかった。


18 結核性髄膜炎(tuberculous meningitis)

髄膜炎菌感染症が集団生活者において発生した場合、しばしば二次感染を起こす。このため、ご本人・母親に了承を得た後、学校側と連携をとって予防投薬の検討に入った。学校内で特別に濃厚接触している生徒はいなかったが、吐物を素手で処理した教員が2名いることが判明した。予防投薬対象者は寮で同室の男子生徒15名および吐物を処理した男性教員2名とした。

初期研修医〜一般内科向けに作成したスライドです。髄膜炎菌の部分は曝露後予防など少し踏み込んでいるので、興味があれば。

臨床経過
病歴、身体所見および髄液所見から髄膜炎と診断し、デキサメタゾン6.6 mg単回静注後にセフトリアキソン 2g 1日2回点滴静注にて入院加療を開始した。入院翌日朝、髄液培養中の液体培地にてコロニーの出現あり、グラム染色にてグラム陰性球菌が認められ、髄膜炎菌性髄膜炎の可能性が非常に高いと考えられた。

髄膜炎菌感染症(Meningococcal disease)

理論的に効果があるはずだという見解と,場合によっては患者の状態を悪化させる可能性があるという見解がある。

1.ステロイド薬が予後を改善する原理
細菌性髄膜炎の治療時にステロイド薬を併用すると予後が改善する原理については,わが国の『細菌性髄膜炎の診療ガイドライン』1)のなかでまとめられている。細菌性髄膜炎は,くも膜と脳軟膜に囲まれたくも膜下腔に細菌性の炎症が生じたものである。細菌成分のエンドトキシン,タイコ酸,ペプチドグリカンなどが,腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)-αやインターロイキン(interleukin:IL)-1などの炎症性サイトカインを誘導し,これがIL-6や血小板活性化因子(platelet activating factor:PAF)などを活性化し,サイトカインカスケードやアラキドン酸カスケードを介して,白血球の活性化,血管内皮細胞の障害,凝固系の活性化をもたらす。このような,さまざまな炎症の過程が脳実質や脳血管に波及すると,脳浮腫,頭蓋内圧亢進,脳血流障害,脳血管炎,神経細胞障害などを引き起こし,これらによって後遺障害や死亡などの転帰不良をもたらす。ステロイド薬は炎症性サイトカイン,プロスタグランジン,PAFなどの産生を抑制することによりこれらの炎症の過程を軽減し,後遺障害が減少すると考えられている。

2.ステロイド薬が予後を悪化させる可能性について
同ガイドラインのなかでもステロイド薬導入の可否について留意するべき事項を挙げている。
①重篤な敗血症を基盤に発症してきている髄膜炎,②すでに抗菌薬が開始されている症例,③適切な抗菌薬が投与されていない症例,に注意が必要であるとしている。
グラム陰性桿菌の敗血症や菌血症では抗菌薬投与時に大量にエンドトキシンが放出され,ショックに陥ることがある。そのような状態にならないためにステロイド薬をあらかじめ投与しておこうという意図で投与するならば,すでに大量のトキシンや菌体成分に曝露された重篤な状態や,抗菌薬が投与されている状態ではステロイド薬を投与する意義が相当程度薄れることになる。また,現時点では耐性度が高いために抗菌薬の効果が全く期待できないほどの耐性菌による髄膜炎はきわめてまれである。しかし,そのような細菌による髄膜炎がいつ増加してくるかわからない。高度耐性菌による感染時にステロイド薬を投与したために悪化することはないか想定しておくことは重要な課題である。髄膜炎患者では血糖調節異常や凝固異常がしばしば認められるが,ステロイド薬はこれらの異常を,理論的には助長し予後を悪化させる可能性がある。そのため,髄膜炎に対してステロイド薬を投与することに反対の意見もある。

襲性髄膜炎菌感染症が発生した場合に、 迅速かつ効率的に情報収集を実施する

2013年5月、全寮制高等学校に通う生徒が髄膜炎を発症した。翌朝、髄液培養からグラム陰性球菌の発育が認められた時点で、髄膜炎菌性髄膜炎の可能性が非常に高いと考え学校関係者に予防投薬を行った。その後、他の発症者は認められず、予防投薬が有効であったと考えられたので報告する。

菌血症は見逃されているかも知れない (4)中枢神経感染・細菌性髄膜炎の原因となることの多いS

細菌性髄膜炎の患者に補助的療法としてステロイドを投与するかどうかを決定する必要がある臨床医にとって、今回のこの知見が暗示しているものは一体何なのか?われわれは、医療をより受けやすい収入の高い 国々の細菌性髄膜炎患者の試験において一貫して示されているステロイドのベネフィットから考えると、そのような状況ではステロイドを使用するのが当然であると確信している。また、ステロイドの有害事象は全ての試験において、ほとんど認められていない。疾患やHIV 感染の認識の遅れがステロイドのベネフィットを妨げている収入がより低い国々では、有効な抗生物質が投薬されるような状況を改善するための試みが必要である。しかしながら、30 年以上にわたる努力と議論から明らかにされる一つの最も重要なテーマは、ステロイドによる補助的療法は世界的に、特に細菌性髄膜炎に関連した罹病率や死亡率の割合が異常に高い、医療が十分に行き届いていない地域では、細菌性髄膜炎の公衆衛生上の負担に対して大きなインパクトは与えないのではないかという点である。この点から、研究者、臨床医、製薬会社、公衆衛生当局、財団および政府機関は世界的に、有効な結合ワクチンをより容易に購入でき、より簡単に接種できるよう努力する必要がある。

[PDF] JHN CQ 161031 NTMC 水痘帯状疱疹ウイルス髄膜炎.pptx

この新たに実施されたメタアナリシスには、5 つの個々の試験の方法論的な厳密さ、個々の被験者データの利用、臨床的に関連した転帰、ならびに事前に特定したサブグループといった、いくつかの強みがあった。この解析の主な限界は、個々の試験間の不均一性(何らかの不均一性を示したものを含む)を検証する既報の検定法が、収集されたデータによって制限されたことであった。すなわち第1 には、マラウィで実施された試験でさえ、全ての患者に対してHIV 検査が行われたわけではなく、また地域の疫学パターンに基づいて患者のHIV の状態が割り振られていた(検査されなかった全てのマラウィ人成人患者はHIV 陽性 であるとみなされたが、小児の場合は、HIV 検査を行わない限りは陽性・陰性の判断はしなかった)ことから、HIV の状態が及ぼす影響を検証するには限界があったという点があげられる。第2 には、感染に 対する臨床反応や有害な転帰に関連した宿主因子である栄養失調が、全ての患者で評価されていたわけではなく、また地域の有病率に基づいて分類されていた点があげられる。第3 には、患者の意識レベル(2 つの異なるスコア化システムを組み合わせて測定する)に基づいて髄膜炎の重症度を層別化しようという試みがなされたが、精神状態を評価するタイミングに関して標準化がなされなかった点があげられる。髄膜炎は進行が早い疾患であり、そのため、もし結果が一般化できるようなものである場合には、意識の臨床評価を行う正確なベースライン時点(例えば、最初のトリアージの段階で、抗生物質の投与時、あるいはステロイドまたはプラセボの投与時)を規定しておくことが重要である。第4 には、細菌性髄膜炎は通常、神経系だけでなく全身性の感染症であり、血圧や血中乳酸濃度といった他の鍵となる臨床データが、このメタアナリシスでは他の方法で検出されなかった重要な不均一性を示した可能性があるという点があげられる。

[PDF] 長期ステロイド治療を必要としなかった犬の ステロイド反応性髄膜炎

まず,ステロイド薬を重症の敗血症および敗血症性ショックに使用した場合のメタアナリシスでは重症化を招く傾向があると報告がなされていた2)。しかし,その後のメタアナリシスにおいては,敗血症または敗血症性ショックにおいても少量のステロイド薬は少なくとも悪い影響はなく,特に副腎不全を伴う症例においては有益であるとの報告がなされている3)4)。
前述したような理論的背景から,細菌性髄膜炎に対してステロイド薬を投与したランダム化比較試験がなされ,よい効果が認められたとする報告が相次いだ。初期の論文を紹介すると,明らかに難聴の発生率が減少したとするLebel 5)らの報告がある(表1)。

ステロイド反応性髄膜炎- 動脈炎 (Steroid- responsive meningitis ..

これら2 つの試験から得られた矛盾するエビデンスは、ステロイドによる補助的療法の効果は地理的な場所によって異なるという考え方を裏づけるものであった。その新たな知見がvan de Beek らを、最新のメ タアナリシスの実施へと駆り立てた。この解析には、2001 年以降に発表された、細菌性髄膜炎に対するデキサメタゾンによる補助的療法に関する二重盲検無作為化プラセボ対照試験で、個々の試験における患者の生データが利用可能であった5 つの試験が含まれた。この5 つの試験は、前述のマラウィおよびベトナムで成人を対象として実施された2 試験、西部ヨーロッパで成人を対象として実施された1 試験、ならびに南アフリカおよびマラウィで小児を対象として実施された2 試験であった。全体で、計2,029 例の患者のオリジナルデータが解析された。このメタアナリシスの最も重要な結論は、デキサメタゾンは(難聴または神経学的疾患の改善の有無にかかわらず)生存率を改善しなかったというものであった。生存患者で唯一認められたベネフィットは、難聴の減少であった。事前に規定していたサブグループ、すなわち起炎菌、HIV の状態、年齢またはデキサメタゾンの前に行った抗生物質による前治療が同じであった患者についてさらに解析を実施した結果、いずれの主なサブグループにおいても、デキサメタゾンによる補助的療法のベネフィットは認められなかった。

なお、細菌性髄膜炎の原因菌の多くは肺炎球菌とHib(インフルエンザ菌b型)とされ、ワクチン接種により予防が期待できます。 原因

Cochrane レビューの著者らが予想していた通り、収入が低い国々の細菌性髄膜炎の成人患者を対象として実施された2 つの臨床試験では、矛盾した結果が示された。マラウィで実施された試験では、ステロイ ドによる補助的療法によって、罹病率または死亡率は低減しなかった。ベトナムで実施された青年および成人(年齢> 14 歳)の細菌性髄膜炎患者を対象とした試験では、全ての患者のintention-to-treat 解析の結果、ステロイドによる補助的療法によって、1 ヵ月時点での死亡リスク、6 ヵ月時点での死亡または障害のリスクは低減しなかった。微生物学的に確認された細菌性髄膜炎を有する患者のサブグループ解析(全コホートの69%)においてのみ、ステロイドによる補助的療法のベネフィットが示されたが、そのベネフィットが認められたのはグラム陽性の起炎菌を有する患者に限定されていた。ベトナムにおいて微生物学的に最も高頻度に確認される髄膜炎の起炎菌がStreptococcus suis であったことを考慮すると、この起炎菌はアジア以外の国では稀であることから、前述のサブグループにおけるベネフィットでさえも、それを一般に外挿することについては疑問が残されていた。